色彩の本質

アリソン・トンプソン

 

学芸員

2022 冬

Allison Thompson

カナダ西部で生まれ育ったAllison Thompson (アリソン・トンプソン)は、複数の近現代芸術を扱うギャラリーでの勤務経験があり、主に現代アート展の企画を担当してきた。2014年に自身のギャラリー、AT Art & Interiorsを立ち上げ、アドバイザーサービスを始めている。アジアとカナダのギャラリースペースで、著名な芸術家だけではなく、新進気鋭の芸術家の為に、何度も展示を企画した。イギリスのロンドン大学キングス・カレッジで、名誉理学士を取得した他、ロンドンとニューヨークのサザビーズ インスティテュート オブ アートでアートビジネスの修士号を取得している。北米で有名なアート専門学校のバンクーバー校であるラサールカレッジで、インテリアデザインの専門的な研修を受講、インテリアデザインの学士号を取得した。そのデザインアプローチは、全体的に調和がとれた、住む人に使い勝手のいい空間となっている。彼女は、優れたデザインが人々の生活に与える影響の大きさを知っており、各種のインテリアデザインの中でも、大勢の人が利用する大規模な施設プロジェクトが、

特に好きだと言う。

初めてチャールズの作品をみつけたのはインスタグラムで、2021年のことだった。デジタル画面を介してでも、作品の色、テクスチャー、抽象性、スケールの大きさを感じることができた。私がインスタからチャールズにメッセージを送ると、幸運にも会ってもらえることになった。

そして、チャールズと何度か会ううちに、彼の作品やアートへのかかわりを知ることになる。ここから、キュレーターとアーティストの特別な関係が始まった。チャールズは、連続体としての時間を記録するために、さまざまな色彩を描くことに意欲を燃やしていた。彼は、色の本質を熱心に探求していた。そのテーマや芸術的なテクニックは、アートとデザインのバックグラウンドを持つ私の心に響いた。チャールズのアートは、審美的な感動を呼ぶだけでなく、概念そのものも刺激的だったのだ。

私はキュレーターとして、過去10年間、ギャラリーや実験的なスペースで大小の美術展を実施してきた。素晴らしいアートを前にすると、いつもとてつもないインスピレーションを感じる。手掛けた展覧会を訪れるすべての人に、この感覚を分かちあってもらうことが私の目的だ。作品やアーティストの背景についての話や美しさそのものに感動してもらいたい。こうして《花々間奏—夕べ》 Fafa Interlude のアイディアがまとまり、Fafaシリーズは、チャールズの大規模な個展として、初めてバンクーバーで開催された。

チャールズの作品の魅力を高める展示会場探しをして、ようやく適切なスペースが見つかった。バンクーバーの不動産開発企業 Low Tide Properties の計らいで、4000平方フィートの倉庫のようなユニークなスペースを使えることになった。こんな広大なスペースに見合う作品を持つアーティストは、そう多くはいない。その意味で、チャールズはこのスペースに怖気づくどころか、満を持していたのだった。この空間は、チャールズの素晴らしい作品群と完璧に調和していた。彼の物語と作品に命を吹き込み、鑑賞者がじっくりとそれぞれの作品を堪能し、思いを馳せ、驚き、インスピレーションを感じることができた。大判のキャンバスを中心に、合計37点の絵画を展示した。

展覧会の様子

《花々間奏—夕べ》は、Fafa シリーズ123の混合構成だ。これは、2020年香港でのデビュー作《花々》 Fafa シリーズの Why do I paint the flower pink? なぜ桃色の花を描くのか《花々1》と、2023年に東京で開催する When do you last kiss the clouds? 雲に最後に接吻したのはいつ《雲にキス》の、中間レビューとしての開催となる。

「Fa」は、広東語で花という意味だ。花のもつ純粋さが作品に具現化され、タイトルはこの花の力を強調している。音節を繰り返すことで、幼い子が広東語で 「花々」と発音するときの純粋さと喜びを表現している。

チャールズは今回の展覧会でも。引き続き膨大なカラーパレットを駆使して、人それぞれに内在する主題のずれや文脈上の視点など、自由な会話を引き出した。色がもつそれぞれの意味は、見る人の興味や鑑賞する時間によってまさに千差万別だ。大判のキャンバスに描かれたセンセーショナルなペインティングは、瞬く間に刺激的な反応を巻き起こし、鑑賞者の時間への意識を研ぎ澄ます。

空間を行き交う 

展示は、4つのエリアに分かれていた。

この展覧会は、チャールズの長年にわたる制作活動を振り返りながら、新たな啓発を生み出す作品を評価・編集し、そして彼独自のテーマ性に新たなステージと物語性を付け加えることが目的だった。

以下は、本展内を口語で道案内したもので、作品を通じてチャールズのストーリーに触れている。

A 時間と色彩の関係 
作品: 《季節の匂い》(Smell of Seasons)、 ‌‌《春の空》(Spring Hexadic)、
《花の間に散在するもの》(Gaze)

展覧会場に入ると、《花々3》シリーズそれぞれの絵画が来場者を出迎えます。最初のシリーズ《花々1》の《季節の匂い》(Smell of Seasons)では、チャールズは四季を時期や色で表現しています。これらの作品のテーマは、子供時代の喜びや無限の幸福感です。「花は見るたびにいつでも喜びをくれるんだ」と、チャールズは言います。

《花々1》の隣には、《花々2》の三連作《春の空》(Spring Hexadic)が置かれ、季節のうつろいで変わる色の可能性に焦点を当てています。その向かいにある《色相》(Hues)は、同シリーズ内のもうひとつの二部作で、一日の異なる時間帯でどの色が変化するかを表現しています。左側は午前10時の色相、右側は午後4時の色相です。特定の時間帯ごとの色を見極めそれを提示する、作者の驚くべき感受性といえます。 

鑑賞者が会場入り口に戻ろうと振り返ると、《花の間に散在するもの》(Gaze)(視線)がみえます。これは《花々3》に含まれるチャールズの最も大きな絵のひとつで、自然界の「いのちの代理人」というテーマで制作している作品です。 この絵画を長い間眺めていると、その巨大な力と絶妙な被写界深度を感じることができます。花々3は、東京でも開催が予定されています。

B グレーに関する研究 色彩トーンやシェード 

作品: 《夕べ》(Last Night)、 《虹のインク》(Rainbow’s Ink) 

展示室の中央に進むと、最新作《花々2》が展示されています。この作品では、色のトーンやシェードだけでなく、グレーの探求にも踏み込んでいます。《花々2》は東京での展示も予定されています。チャールズは自然の「色」を描くだけでなく、色の「性質」についても拡張しているのです。このシリーズでチャールズは色とは何かなどの疑問を投げかけています。もし光がなかったら、私たちは実際に色を見ることができるのか?それとも、水紋の上の色しか見えないのでしょうか?

チャールズは「私たちは、すべての夜が異なり、いかなる出来事や色も同じではないことを知っています。今がその瞬間であり、それはとらえているそばから消え去ってしまうということを。それぞれの夜はある意味、最後の夜、Last Night なのです。」

チャールズの作品《夕べ》(Last Night)ー色彩は実際に存在しているか、と作者は問いかけます。彼は以前、この作品の端で絵を描いていると言っていました。すべての色が消失し単なる記憶となる前の特別な瞬間を捉えるためです。彼は、ある意味で毎晩が最後の夜だと信じているのです。いま存在しているという時間の意識。 ただひとつ、断片的な記憶…匂いや色やおぼろげな印象…は、かろうじて手に入れることができるかもしれないのです。そんな感覚的な記憶は、主観的または気質的なものだとしても、人それぞれ捉え方が違うのです。

一方、もう一つの作品《虹のインク》(Rainbow’s Ink)では、グレーが実際の色なのか、なぜ一部の人がこの色に引き寄せられるのかを探索していいます。この色に惹かれるのはどんな人だろうと考えさせられます。確かに私たちバンクーバー市民は、毎日のように灰色の空を目にしているからかもしれません。

これらの作品が横に並べるあることで、白と黒、そして「グレー」という要素を、カラフルな色とその関係性について探求することができます。これまでの定説に疑問を投げかけ、心を開き、一歩引いて色彩を考えるきっかけになるような展示がここにあります。

C アーティストの哲学

作品: 《同じ空の下で》(After the Blue Moon)、 《天と地》(Heavenly)

展示室の奥に進むと、作家の作品制作にまつわる哲学や精神が見えてきます。チャールズにとって、それは日々のシンプルな実践であり、美化されたり増幅されたりするものとは無縁です。

彼は、鑑賞者に作品の隠された意味をめぐる旅をしてもらい、自身の文化、精神状態、文脈をベースにして、作品の文脈から逸脱する興奮を感じてほしいのです。チャールズの作品を見ていると、ほとんどの人が高揚感を覚えると思いますが、作品への感じ方が人それぞれ違うのは興味深いことではないでしょうか?  

《同じ空の下で》(After the Blue Moon)(蒼い月のあとで)という作品では、私たちの多くが天文学の不可思議さに興奮するのに対し、作者はごく普通の夜と昼のシンプルな喜びに興味を示しています。ブルームーンのあとの夜であろうと、農家がお祭り騒ぎをする収穫祭の満月であろうと。

展示室の後方には、《天と地》(Heavenly)と題された、大型(173x670)のクアドリプティク(四連祭壇画)が展示されています。この絵は、ある人には鮮やかで大胆に見えるかもしれませんが、ある人には穏やかで落ち着きのある色に見えるかもしれません。近づいてみると、確かに筆づかいの速さや遅さ、絵の具の重さや圧力が感じられます。

チャールズの作品は、すべての人の心に驚きと喜びをもたらします

D 出口

作品: 《スケール練習》(Scale)、 《いつもの》(Usual)、《満開》(Plentitude)

最後に、後方にある《スケール練習》(Scale)は、年間さまざまな時期に演奏する楽器に関連した、色の遊びこころ溢れる作品です。

また《いつもの》(Usual)は、チャールズがより瞑想的なアプローチで制作に取り組んでいる作品で、これもまた彼の哲学を反映しています。

来場者が出口に向かって歩き出すと、最後に《満開》(Plentitude)が迎えてくれます。

この作品においても、色彩のボキャブラリーを駆使して、私たちに興奮とダイレクトな体験を与えてくれることに心躍りました。チャールズと、この展覧会の開催をサポートしてくださったすべての方々に感謝します。私はこの展覧会にキュレーターとして参加できたことを光栄に思います。

この、美術館と並ぶレベルの展覧会を満喫し、アーティスト、チャールズ チャウ本人と彼の色彩の世界に魅了されることを願っています。どうぞお楽しみください。